ルドルフ・バルシャイは、1924年に生まれ2010年に没した、ロシア出身の名指揮者。当初はヴィオラ奏者として活躍、その後はモスクワ室内管弦楽団を組織し、驚異的なアンサンブル指導力で指揮者として名を馳せます。ユダヤ人のバルシャイは1976年にイスラエルに亡命し、世界各国で指揮活動を行います。高い理想と極度の練習の厳しさから、名門オーケストラとの衝突は絶えず、主に客演指揮者としての活動がメインとなりました。楽譜の校訂、編曲も巧みで、マーラーの交響曲第10番のバルシャイ版は日本でも読響と演奏されました。今回の読響との共演はディスク初出レパートリーを中心に選び、その強烈な個性を余すことなく堪能できる名演ばかりです。
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
演奏タイミング:[23:24][13:16][12:15][29:42]
※鬼才バルシャイ、ディスク初レパートリーとなる「悲劇的」。これはギーレン盤以上の問題作と申せましょう。極限までシェイプアップされたアスリート的なボディに、感情注入の欠片もないドライでクールな表現。何も考えずに音化してもそれなりの抒情的な演奏に聞こえてしまう傑作交響曲ですが、バルシャイの意図はどの箇所でも常に明確です。特に緩徐楽章(第3楽章)をここまで色気なく(色気を否定して)紡いだ演奏が他にあるでしょうか。非ロマン的解釈と呼ぶには余りにも問題提起の多い演奏。読響が献身的に従う様が恐ろしいほどです。
ルドルフ・バルシャイ(指揮)
読売日本交響楽団
録音:1989年11月25日東京文化会館第267回定期演奏会ステレオ・ライヴ
(マスタリング:WEITBLICK)
「モーツァルト:交響曲集」
①交響曲第35番ニ長調「ハフナー」K.385
演奏タイミング:[5:46][9:00][2:55][4:10]
②交響曲第39番変ホ長調K.543
演奏タイミング:[11:20][9:12][4:06][5:52]
③交響曲第40番ト短調K.550
演奏タイミング:[8:12][11:44][4:16][7:01]
④交響曲第41番ハ長調「ジュピター」K.551
演奏タイミング:[11:15][12:47][4:37][11:57]
※バルシャイのモーツァルト交響曲はMELODIYAからCD二枚分が発売になっておりました(第25&40番、第28&41番)。当CDも過激な演奏で、近代的なオーケストラである読響を縛り上げて、締め付けて、贅肉を削ぎ落として、異形のモーツァルトを構築しております。第35番、第39番は2006年の演奏で最後の来日となりましたが、緩みは一切見られません。こういう室内楽的緊密度、緊迫感は、弦楽器出身のシャンドール・ヴェーグとも共通します。1989年の第40番、第41番「ジュピター」に至っては、郷愁や感傷を一切拭い去った潔さに惹かれてしまいます。多くの巨匠指揮者が晩年になるとロマンティックに傾斜していく中、バルシャイはまったくその魅力と誘惑を否定し続けた稀有の存在と言えるでしょう。
ルドルフ・バルシャイ(指揮)
読売日本交響楽団
録音:①②2006年4月14日東京芸術劇場第127回芸劇名曲シリーズ
③④1989年11月19日サントリーホール第280回名曲シリーズ
全曲ライヴ・ステレオ録音(マスタリング:WEITBLICK)
①ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」
演奏タイミング:[18:20][14:20][10:35][21:15]
②グルック:「アウリスのイフィゲニア」序曲(モーツァルト版)
演奏タイミング:[8:52]
※1979年は、バルシャイ+読響の初共演で、多くの演奏会が持たれましたが、その中からブルックナーとグルックをご紹介。驚くべきは、読響のスマートな反応で、とても巧い!バルシャイの細かく、うるさい指示が隅々まで行き届いております。こういう極度に厳しい演奏を聴くと、世界中でどこのオーケストラとも常任的ポジションは長く続かず、客演指揮者としての活動がメインとなったことが頷けます。バルシャイはマーラー程ブルックナーを取上げなかったようで、その点も貴重。予想通りの快速で、全く「ロマンティック」ではない演奏を聴かせております。
ルドルフ・バルシャイ(指揮)
読売日本交響楽団
録音:1979年6月13日東京文化会館第145回定期演奏会
全曲ライヴ・ステレオ・アナログ録音(マスタリング:WEITBLICK)
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